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徳山にいってきました(大西)

SA3A0183.jpg徳山が水の底に沈んでから、初めて僕は門入集落をめざした。
案内してくれたのは、映画にも出てくれた広瀬司さん、ゆきえさん夫婦の長男である博(ひろし)さんだ。

徳山村門入は徳山ダムの水没を免れた唯一の集落だが、村民のほとんどは移転地に引っ越している。
門入は下流から入るのは、道路が水没しているため、不可能である。
そのため隣の坂内村の川上という集落からホハレ峠を歩いて越えることになる。

ホハレは頬が腫れるほど寒い峠と言われていて50年ほど前まで使われていた。
しかし道路の整備や車の往き来が当たり前の時代となり、ホハレは使われなくなった。
ゆきえさんの話の中によくホハレの事が出てくる。
「若い頃、栃板や繭玉をよう運んだ。男女が唄を歌いながらな、そら楽しかった」と。
その峠は最近になり使われるようになったが、それでもまだ荒れている箇所がいくつもあった。
あらためて、門入と坂内村の距離の感覚がわかった。

久しぶりの門入。懐かしく、いとおしい。やっと逢えたといううれしさが込み上げてきた。
しかし昔とは明らかに違う。取材中が一番幸せだったと実感した。
そして一つの時代が終わったとも感じた。

博さんと戸入集落に移動した。
満水より10mほど水位を下げていたから一度満水で水没していた木々に緑はなく、完全に生気を失った灰色になっていた。
あの戸入がない。当たり前だが、でもあの水位の高さに驚いた。

山から流れる水は美しいがどんどん貯まる水には流れがなく一気に茶褐色に変わっていった。
徳山の美しさは目の前から消えていた。
なんて人間は愚かなのか。怒りと悲しみが交互に脳裏をかすめる。
そんな複雑な想いと、僕の舞台との再開に充実した日だった。


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